0. このマニュアルの使い方
- 本書は、シューリーズ加盟店に共通する見積の標準手順書です。「誰が作っても同じ品質の見積」になることを目的とします。
- 章・節ごとに独立して読めるように書いています。現場では必要な章だけ拾い読みしてください。新人は第1章〜第3章を必ず通読してください。
- 金額・単価・係数などの具体的な数値は各店の設定に従います。本書では清田自動車(運営中核店)の実値を《参考例》囲みで示していますが、これは「イメージをつかむための例」であり、自店の基準値ではありません。
- 本文中の
> 📷【画像挿入】の行は、後日画像(写真・画面キャプチャ)を差し込む箇所です。差し替えの際はこの行ごと画像に置き換えてください。 - 表記の統一:「鈑金」(「板金」とは書かない)。
各店で設定・調整する項目一覧(導入時に必ず埋める)
| # | 項目 | 自店の設定値(記入欄) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | レバレート(国産・個人/保険) | ______ 円/h | 各店設定 |
| 2 | レバレート(輸入車・個人/保険) | ______ 円/h | 各店設定 |
| 3 | レバレート(業者/ディーラー別) | ______ 円/h | 取引先ごとに設定 |
| 4 | 塗装材料係数 | ______ | 本部推奨値を参考に各店が決定(第6章) |
| 5 | 見積料の有無・金額・費用区分(全損時等) | 有 ・ 無 / ______ 円 | 各店判断(第10章) |
| 6 | 代車の台数・車種構成 | ______ 台 | 受付マニュアルと共通 |
| 7 | 諸経費(廃棄物処理費等)の設定 | ______ | 各店設定 |
| 8 | 見積の承認者(値引き・保証範囲の最終判断者) | ______ | 店長/代表など |
| 9 | 見積書の有効期限 | ______ 日 | 各店設定(例:30日) |
| 10 | 保険会社への見積送付方法 | ______ | 各社指定システム等 |
| 11 | 特定整備(電子制御装置整備)認証の有無 | 有(自店実施) ・ 無(外注) | 第7章 |
| 12 | エーミング外注先・費用目安・陸送費 | ______ | 認証なし店は必須(第7章) |
第1章 見積の基本思想 ― シューリーズの見積とは何か
1-1. シューリーズの売りは「早い・安い・保証」
シューリーズは、車のキズ・ヘコミ専門のボランタリーチェーンです。強みは次の3点で、見積はこの3点すべてを支える最初の工程です。
| 強み | 見積で実現すること |
|---|---|
| 早い | 分業前提の工程を見越した、その場で概算が出せる見積スピード |
| 安い | 交換ではなく鈑金修正・部分塗装を優先する修理方法の選択 |
| 保証 | 永久保証書を発行できる品質の修理範囲・工程を見積に織り込む |
1-2. 永久保証書が前提であること
- シューリーズの修理車両には永久保証書を発行します(塗装の色あせ・剥がれ等を保証)。
- つまり見積は「安く仕上げる案」ではなく、「永久保証を付けられる品質で、最も合理的な工程」を金額にしたものです。
- 保証を付けられない簡易補修(タッチアップのみ等)を提案する場合は、保証対象外であることを見積段階で明記します。ここを曖昧にすると納車後のトラブルになります。
1-3. 見積は「受注活動」である
- 見積は事務作業ではなく、受注率を決める営業活動です。受注率は「見積の質」と「初期対応の質」で決まります。
見積20件に対して受注約70%という水準(清田自動車の個人ネット経由の実績イメージ。母数・集計期間・チャネルの取り方で数字は変わるため、絶対値ではなく「見積の質で受注率は大きく変わる」ことの目安として捉えてください)。
- 高い受注率の要因は第11章で分解します。新人はまず「見積の速さ・分かりやすさ・保証説明」の3点を意識してください。
第2章 客層3系統の違い ― 個人・保険・業者
見積の作り方は、誰に出すかで大きく変わります。まず入庫がどの系統かを必ず確認してください。
2-1. 3系統の全体像
| 項目 | ① 個人(自費) | ② 保険 | ③ 業者/ディーラー |
|---|---|---|---|
| 主な入口 | シューリーズのネット広告・紹介・リピート | 事故受付(保険会社・代理店経由含む) | ディーラー・整備工場からの外注 |
| 見積の相手 | お客様本人 | お客様+保険会社(アジャスター) | 業者の担当者 |
| 単価(レバレート) | 各店設定(国産/輸入車で別) | 各店設定(指数協定ベース) | 取引先ごとの協定単価 |
| 工数の考え方 | 標準指数ベース | 指数協定(標準指数) | 取引先ごとの協定工数基準 |
| 塗装材料係数 | 各店設定 | 各店設定(協定実務での扱いは第6章) | 取引先協定に従う(係数の枠組みが異なる) |
| スピード感 | その場〜当日の概算提示が理想 | 分解・立会を含め数日単位もある | 取引先の指定納期に従う |
| 提示物 | 見積書+保証説明+納期+代車案内 | 損傷確認書類・写真・協定用見積 | 取引先指定フォーマット |
| 価格の裁量 | 現場の値引きは不可(承認者ルート) | 協定で決まる(現場判断で動かさない) | 単価交渉は本部/管理者マター |
2-2. 入庫構成のイメージ
- 個人:20〜30台(シューリーズのネット広告経由が中心)
- 保険:10〜20台
- 業者:ディーラー数社から計30〜40台程度
- リピート・紹介・持込等:20台前後
- 合計:80〜110台
※構成比は店舗により異なります。自店の構成比を把握し、系統ごとの見積手順を使い分けてください。
2-3. 系統の判定は受付情報から
見積に着手する前に、受付票(受付マニュアル参照)で次を確認します。
- 自費か、保険使用か、保険を使うか迷っているか
- 業者入庫なら、どの取引先か(単価・工数基準・フォーマットが変わる)
- 保険使用が未定の場合 → 自費見積と保険見積の両方の可能性を念頭に置く(第8章 8-5)
第3章 見積作成の標準手順(8ステップ)
すべての見積は次の8ステップで作ります。系統(個人/保険/業者)による違いは各ステップ内に明記します。
① 損傷確認・写真 → ② 修理方法の判断 → ③ 工数の取り方 → ④ レバレート適用
→ ⑤ 材料代 → ⑥ 部品代 → ⑦ 諸経費 → ⑧ 合計・保証の説明
ステップ① 損傷確認・写真撮影
- 現車を必ず自分の目で確認します。お客様の申告だけで見積を作らないこと。
- 損傷パネルだけでなく、隣接パネル・見えにくい奥の損傷(骨格・取付部)まで確認します。
- 写真は撮り方の標準(第4章)に従って撮影します。写真は見積の根拠であり、保険協定・後日のトラブル防止の証拠にもなります。
- 洗車されていない車は、可能なら損傷部を軽く清掃してから確認します(汚れでキズの範囲を見誤るため)。
チェック: - 損傷パネルの特定(複数パネルにまたがっていないか) - 隣接パネルへの波及(チリずれ・押され・二次損傷) - 樹脂部品の割れ・爪折れ(バンパー内部のブラケット類) - 事故によるものか、経年・別原因のキズが混在していないか(混在は必ず区別して記録)
ステップ② 修理方法の判断(交換/鈑金修正/塗装のみ)
まず、対象パネルの素材を部品情報・メーカー修理書で確認します(鋼板/超高張力鋼板/アルミ/樹脂)。素材によって修理の可否と工程が変わります。
| 素材 | 見積時の注意 |
|---|---|
| 鋼板(普通鋼) | 一般的な鈑金修正の対象 |
| 超高張力鋼板(骨格部等) | メーカーが修理不可・交換指定としている場合が多い。修理書の指定に必ず従う |
| アルミ | 専用設備・工具と鉄粉汚染対策(鉄部品との作業分離)が別途必要。対応可否は自店設備で判断 |
| 樹脂(バンパー等) | リペア可否は損傷形態(割れ・爪折れ・変形)で判断 |
シューリーズの「安い」は、直せるものを直す判断から生まれます。ただし「直せるか」は感覚で決めず、メーカー修理書・素材・接合構造・安全装置(ADAS等)への影響を確認したうえで修理/交換を選定します。超高張力鋼板・アルミはメーカー指定の修理可否に従うこと。
| 判断 | 目安(一般論) | 注意点 |
|---|---|---|
| 塗装のみ(+磨き) | 浅いキズで下地が出ていない、変形なし | 磨きで消えるキズは塗装不要の場合も。過剰見積にしない |
| 鈑金修正+塗装 | 変形があるが鋼板の伸び・亀裂が許容範囲 | 修正後に永久保証品質の塗装ができるかで判断 |
| 部分補修(クイック系) | 小範囲の損傷で、ぼかし塗装で仕上がる範囲 | 保証条件は各店・本部基準に従う |
| パネル交換 | 亀裂・大きな伸び・骨格波及・修正コストが交換を上回る | 部品供給の納期を必ず確認(納期回答に直結) |
- 判断に迷う損傷(骨格に届いていそう、修正か交換か境界)は必ず工場責任者に現車確認を依頼します。新人が独断で確定しないこと。
- 分解しないと確定できない損傷は、「概算見積(分解前)」として提示し、分解後に確定見積を出す二段構えにします(第10章の見積料の考え方とも連動)。
チェック: - 対象パネルの素材(鋼板/超高張力鋼板/アルミ/樹脂)を確認した - ADAS/エーミング要否を確認した(対象部位・判定は第7章)
ステップ③ 工数の取り方(標準指数の考え方)
- 工数は原則として標準指数(自研センター指数等の業界標準指数)をベースに取ります。「なんとなく○時間」で書かないこと。
- 指数に載らない作業(ぼかし範囲の追加、付随作業)は、根拠をメモした上で加算します。見積システム上の内訳に残すこと。
- 業者/ディーラー案件は取引先の工数基準に従います。標準指数と異なる工数基準(取引先協定の指数表・作業範囲等)を持つ取引先があるため、取引先別の運用メモを必ず確認します(第9章)。
ステップ④ レバレート(時間単価)の適用
- レバレートはチャネル別(国産/輸入車、個人/保険/業者)に各店で設定されています。自店の設定表を手元に置き、系統を間違えないこと。
- 輸入車は国産より高いレートを設定するのが標準的な考え方です(部品・作業の難度、塗装品質要求、リスクが高いため)。
| チャネル | レバレート | 工数の考え方 |
|---|---|---|
| 業者(ディーラー等) | 4,000円/h | 取引先協定の工数基準(標準指数とは別体系) |
| 国産車(個人・保険) | 10,000円/h | 標準指数 |
| 輸入車(個人・保険) | 13,500円/h | 標準指数 |
※業者向けは単価が低い代わりに、工数基準が取引先ごとに合意した別体系(取引先協定)のため、実質の時間あたり売上は国産個人と同等になる構造。単価と工数は必ずセットで見ること。 ※収益性は「個人の輸入車」が最も高い。見積スピードと保証説明の質を最優先すべき客層。
- レートを現場判断で動かさないこと。単価の変更・交渉は本部/管理者マターです(第9章・第12章)。
ステップ⑤ 材料代(色別パーセンテージ・塗装材料係数)
- 材料代は見積システムが色の種類別のパーセンテージで自動算出します。手計算しないこと。
- 前提として、色の種類(ソリッド/メタリック/パール/3コート/マット等)を正しく入力する必要があります。カラーコードを現車で確認します(第5章・第6章)。
- 材料費高騰時は、工賃単価は据え置いたまま塗装材料係数で材料代に反映する運用が標準的な考え方です。本部は推奨値(参考値)を提示しますが、採用の可否と最終の係数値は各店が独自に決定します(第6章 6-3)。
ステップ⑥ 部品代
- 交換部品は品番を確定し、価格と納期を必ず両方確認します(納期が納車日回答に直結)。
- 新品純正/リサイクル部品/優良部品の選択肢がある場合は、お客様の意向と保証条件を確認してから選定します。リサイクル部品使用時の保証範囲は各店・本部基準に従い、見積書に明記します。
- 小物(クリップ・モール・エンブレム等)の拾い漏れが赤字の典型原因です。分解を伴う作業では脱着で壊れる前提の消耗部品を忘れず計上します。
ステップ⑦ 諸経費
- 廃棄物処理費、シーリング・防錆等の付帯処理、(設定がある店では)代車関連費用など、各店の諸経費設定に従って計上します。
- 「サービスでいいか」と現場判断で落とさないこと。落とすなら承認者の判断です。
ステップ⑧ 合計・保証の説明
- 合計金額は税込・税抜を明示し、内訳(工賃・材料・部品・諸経費)が分かる形で提示します。
- 提示時に必ずセットで伝えること:
- 永久保証書が付くこと(保証対象:塗装の色あせ・剥がれ等。詳細は保証書記載のとおり)
- 納期の目安と代車の案内
- 見積の有効期限(各店設定)
- 分解前概算の場合は「分解後に金額が変わり得る」こと
第4章 損傷写真の撮り方(標準)
写真は「見積の根拠」「保険協定の証拠」「作業者への指示書」を兼ねます。撮る順番を固定して、誰が撮っても同じセットが揃うようにします。
4-1. 標準撮影セット(この順で撮る)
- 車両全体(斜め前・斜め後の2方向。ナンバーが読める距離)
- 損傷部の全体(パネル全体が入る距離)
- 損傷部の寄り(キズ・ヘコミの深さが分かる角度。光の反射を使う)
- 隣接パネルとのつながり(チリ・波及の有無が分かる引き)
- 車検証情報(型式・車台番号・初度登録が読めるように)
- カラーコードプレート(コーションプレート等)
- (必要に応じて)内部・下回り・骨格部(分解時・リフトアップ時に追加)
4-2. 撮影のコツ
- ヘコミは正面からでは写らない。斜めから、蛍光灯や空の映り込みの「歪み」で深さを見せる。
- 逆光・夜間は損傷が飛ぶ。屋内撮影スペースか日陰で撮る。
- 指差し・マーカー(マスキングテープで囲う等)を使うと、後から見て損傷位置を特定しやすい。
- 事故によらない既存のキズ(当て逃げ跡・経年劣化)が近くにある場合は、別カットで撮って「既存」と記録する。保険協定と納車時トラブル防止の両方に効く。
4-3. 写真の保存
- 案件番号(受付番号)に紐づけて保存します。保存先・命名規則は各店の運用に従います。
- 写真は個人情報(ナンバー・車台番号・お客様の映り込み)を含みます。取り扱いは受付マニュアルの個人情報の章に従い、SNS等への流用は本人同意なしに行わないこと。
第5章 見積システム(シューリーズ共通見積システム)の使い方の流れ
※画面の詳細操作は別紙の操作手順(画面キャプチャ付き)を参照。ここでは流れと入力の勘所だけ押さえます。
5-1. 入力の流れ
- 車両情報の登録:車検証から型式・車台番号・初度登録を正確に入力(型式が違うと指数・部品が全部ずれる)
- カラーコードの入力:コーションプレートで実車確認したコードを入力
- 作業項目の選択:交換/鈑金修正/塗装の別、対象パネルを選択 → 標準指数が引かれる
- レバレートの確認:チャネル(個人国産/個人輸入/保険/業者別)に応じたレートが当たっているか確認
- 材料代の自動算出:色の種類(ソリッド/メタリック/パール等)に応じた色別パーセンテージで自動計算される。色種別の選択を誤ると材料代がずれるため必ず確認
- 係数の確認:塗装材料係数が自店で決定した設定値どおりに当たっているか確認(第6章)
- 部品・諸経費の入力
- 出力:提示先(お客様用/保険会社用/業者フォーマット)に応じた帳票を選択
5-2. システム運用の注意
- 見積システム自体は共通ですが、レバレート・塗装材料係数など価格に関わる設定値は、各店が自店の判断で決定して登録します。本部が示す係数等は推奨値(参考値)であり、採否・最終値は各店判断です(第6章 6-3)。
- 担当者が個別案件の都合で設定値を勝手に変えないこと。自店設定の変更は各店の承認者(管理者)の決定を経て行います。操作方法が不明な場合は本部へ問い合わせます。
- システム外で作った手書き・Excel見積を正式提示に使わない。金額の履歴がシステムに残る状態を保つこと(改訂・再見積時の根拠になる)。
第6章 色・塗装種別による材料費の違い
6-1. 色種別と材料費の関係
材料代は色の種類によって大きく変わります。見積システムの色別パーセンテージはこの違いを反映したものです。
| 塗装種別 | 構成(概念) | 材料費の水準 | 見積時の注意 |
|---|---|---|---|
| ソリッド | カラー+クリア(またはカラーのみ) | 低 | 白・黒などでも純正色によっては調色に時間がかかる |
| メタリック | カラー(アルミ粒子入り)+クリア | 中 | ムラ・ぼかしの技量前提。ぼかし範囲を工数に反映 |
| パール(マイカ) | カラー(パール粒子)+クリア | 中〜高 | 見る角度で色が変わる。隣接ぼかしがほぼ必須 |
| 3コートパール | カラーベース+パールベース+クリアの3層 | 高 | 工程・材料とも増。塗装工数も3コート分で取る |
| マット(艶消し) | 専用クリア等 | 高 | 磨きによる補修ができない=部分補修の選択肢が狭い。保証条件・修理方法を工場責任者と必ず協議 |
6-2. カラーコード確認は「現車で」
- カラーコードは必ず現車のコーションプレートで確認します。車検証・型式からの推定だけで確定しない(同型式でも色は多数ある。全塗装・オールペン歴の車もある)。
- 経年車は退色があるため、コードが合っていても調色作業が発生します。輸入車・特殊色は調色工数を見込むこと。
6-3. 塗装材料係数(材料高騰時の運用)
- 塗料・ナフサ等の高騰局面では、工賃単価(レバレート)は据え置いたまま、塗装材料係数を見直して材料代に反映するのが標準的な考え方です。
- 係数の建付け(役割分担):
- 本部の役割:材料市況を踏まえた推奨値(参考値)の提示と、根拠資料(材料価格の推移等)の提供
- 各店の役割:推奨値を参考に、採用の可否と最終の係数値を自店で決定し、システムの自店設定に反映する
- 担当者が個別案件で勝手に係数を動かさないこと。自店の係数変更は各店の承認者(管理者)の決定による
- 系統別の考え方:
- 保険案件:係数の扱いは協定実務・保険会社により異なります。管理者に確認のうえ、塗料使用量・塗装種別など根拠資料に基づいて説明します。否認・修正要請を受けた場合はフロントで抱えず管理者へ引き継ぐこと
- 業者/ディーラー取引:単価・工数を取引ごとに決める構造であり、係数の枠組みが異なる(取引先協定に従う)
- 個人向け:各店の価格設定に従う
- お客様・取引先から係数について質問された場合は、「材料費の高騰分を材料代の算出係数で反映しているもので、工賃の値上げではない」ことを根拠資料に基づいて説明します。詳細な交渉はフロント判断にせず管理者へ。
第7章 ADAS・特定整備(エーミング)の扱い
近年の車両は、バンパー・ガラス・ミラー等にADAS(先進運転支援システム)のカメラ・ミリ波レーダー・ソナーが搭載されています。これらの脱着・塗装・位置ずれを伴う修理ではエーミング(機能調整)と事前・事後スキャンが必要になり、見積金額・納期・法規(特定整備)に直結します。見落とすと安全に関わる重大事故と法令違反の両方につながるため、見積段階(ステップ②)で必ず確認します。
7-1. エーミング要否の判定(対象部位の一覧)
次の部位の脱着・交換・塗装・位置ずれ(骨格修正後を含む)を伴う場合は、エーミング要否をメーカー修理書で必ず確認します。
| 部位 | 主なセンサー | エーミングが必要になりやすい作業 |
|---|---|---|
| フロントバンパー・グリル | ミリ波レーダー・ソナー | 脱着・交換・塗装(レーダー透過部を含む) |
| フロントガラス | 単眼/ステレオカメラ | ガラス交換・カメラ脱着 |
| ドアミラー | カメラ(アラウンドビュー等) | ミラー交換・脱着 |
| フェンダー周辺 | 側方レーダー・ソナー | 交換・脱着・大きな鈑金修正 |
| リヤバンパー | 後側方レーダー・ソナー | 脱着・交換・塗装 |
| 骨格修正後の車両全般 | 全センサー | 車体寸法の変化により再調整が必要になる場合 |
チェック: - 対象車両のADAS装備の有無をグレード・現車(カメラ・レーダーの位置)で確認した - 作業範囲がセンサーの脱着・塗装・位置ずれに掛かるか確認した - メーカー修理書でエーミング要否・作業条件(ターゲット設置スペース・水平床等)を確認した
7-2. 特定整備(電子制御装置整備)認証 ― 自店実施か外注か
- エーミング等の電子制御装置整備は、特定整備(電子制御装置整備)認証を受けた事業場で行う必要があります。
- 自店の認証の有無で対応が分かれます(冒頭の設定項目一覧 #11・#12 に記入)。
| 自店の状況 | 対応 |
|---|---|
| 認証あり(自店実施) | メーカー修理書・診断機の対応範囲を確認のうえ自店で実施 |
| 認証なし/診断機の対象外メーカー | 認証工場・ディーラー等へ外注。外注先・費用・納期を見積段階で確定する |
7-3. 事前・事後スキャン(診断機)
- 入庫時(分解前)に診断機で事前スキャンを行い、既存の故障コード(DTC)を記録します(事故由来か既存かの切り分け=後日トラブル防止)。
- 修理完了後に事後スキャンを行い、故障コードの消去と正常状態を記録します。
- スキャン結果は帳票・写真で案件番号に紐づけて残し、保険案件では協定資料・エビデンスとして活用します。
7-4. 見積への計上
- エーミング作業料(自店実施:自店設定の作業料金/外注:外注費)
- 事前・事後スキャン(診断料)の計上(各店設定)
- 外注時の陸送費・引取納車費
- 外注先の納期を納車日回答に織り込んだか
- 保険案件では、エーミング・スキャンの必要性をメーカー修理書を根拠に示し、協定資料に添付します。
7-5. レーダー透過部の再塗装に注意
- ミリ波レーダー前面のバンパー・エンブレム裏などのレーダー透過部は、メーカー指示により再塗装不可(塗膜厚の制限)とされている場合や、指数が設定されていない場合があります。
- 該当部位の塗装を含む見積は、必ずメーカー修理書の指示を確認し、再塗装不可なら部品交換で見積します。判断に迷う場合は工場責任者へ。
第8章 保険案件の見積フロー
8-1. 保険案件の特徴
- 見積の「相手」がお客様と保険会社(アジャスター/技術調査員)の二者になります。
- 金額は最終的に協定で決まります。協定は保険会社(アジャスター)との協議結果に、損害額の当事者であるお客様の承諾を得て完結します(保険会社との合意だけでは完結しない。保険協定マニュアル第3章 3-4)。したがって現場の仕事は「協定で通る、根拠の揃った見積」を作ることです。
8-2. 標準フロー
受付(保険会社・証券番号・事故状況の確認)
→ 損傷確認・写真(第4章の標準セット+事故との因果が分かるカット)
→ 概算見積の作成(標準指数・協定レート)
→ 保険会社へ連絡・見積送付(各社指定の方法)
→ アジャスター対応(立会 or 画像協定)
→ 協定(金額合意)
→ お客様へ自己負担の有無・金額を説明 → 着工合意
→ 修理 → 納車・請求
- 協定前に着工しないのが原則です(追加損傷の発見時は写真を撮り、追加協定を取ってから進める)。
- 例外運用(先行着工等)は必ず管理者判断。
8-3. アジャスター立会・協定の勘所
- 立会前に、写真・見積・(分解済みなら)分解状態を揃えておく。根拠が揃った見積は協定が早い。
- 工数は指数協定(標準指数)ベース。指数外作業は「なぜ必要か」を現物と写真で示せるように準備する。
- 塗装材料係数は自店の設定値で提示する(第6章)。根拠を聞かれたら塗料使用量・塗装種別等の根拠資料に基づき説明し、その場の値引き合意はしない。否認・修正要請は管理者へ引き継ぐ。
- エーミング・スキャンの必要性はメーカー修理書を根拠に示す(第7章)。
- 協定内容(金額・項目)は必ず記録し、見積システムの案件に残す。
8-4. お客様への説明で必ず押さえること
- 自己負担の有無(免責金額・過失割合による負担)
- 保険を使った場合の等級への影響は保険会社・代理店に確認いただく話であること(当店が断定しない。「使わない方が得ですよ」等の断定はトラブルの元)
- 修理範囲は協定に基づくこと(事故と無関係の既存キズは対象外。希望があれば自費見積を別途出す)
8-5. 「保険を使うか迷っている」お客様
- 自費見積を先に提示し、保険を使う場合の流れを説明する二段構えが標準です。
- 小さい損傷では自費の方が合理的なことも多く、正直な提示が信頼=受注につながります。
第9章 業者/ディーラー案件の見積の勘所
9-1. 基本構造
- 業者案件は継続取引です。1件の利益より「安定した品質・納期・書式対応」が評価されます。
- 単価(レバレート)と工数の基準は取引先ごとに合意済みの協定(指数表・作業範囲・除外作業・請求単位)で決まっています。現場は協定条件を正確に適用することに徹します。協定に根拠のない倍率加算・上乗せは禁止です。
- 主要ディーラー1社:約30台/月、レート4,000円/h。単価は低いが、工数基準が取引先協定の別体系のため、実質の時間単価は国産個人と同等水準になる設計
- 他ディーラー:十数台/月〜各2〜3台/月
※「単価が低い=損」ではなく、工数基準とセットで実質時間単価を見る。
9-2. 現場ルール
- 取引先ごとの運用メモ(レート・工数基準・指定書式・請求ルール)を必ず確認してから見積を作る
- 適用するのは取引先ごとに合意済みの協定条件のみ。協定にない加算・除外を現場判断でしない
- 単価・条件の交渉は本部/管理者マター。現場で「今回だけこのレートで」等の合意をしない
- 現場値引きNG。取引先担当者からの値引き要請は「持ち帰って管理者に確認します」で受ける
- 納期回答は工場の負荷を確認してから。安請け合いした納期遅延は取引全体の信用を毀損する
- 品質クレームは個人客以上に取引全体へ波及する。保証・再修理対応は管理者へ即報告
第10章 見積料の考え方(全損時の丸損対策)
10-1. 問題の構造
- 事故車の見積は、分解・部品調査を含めると数時間かかる専門作業です。
- ところが全損判定になると、保険金は「時価+諸費用」のみで支払われ、見積を作った工場の手間は対価ゼロになりがちです(業界慣習)。
- 特に経年の輸入車(時価が下がっている一方で部品代が高い車両)は全損判定になりやすいため、手間をかけた見積ほど丸損になるリスクがあります。
10-2. 標準の対策(運用ノウハウ)
- 受付時の事前告知+書面同意:全損リスクがありそうな案件(大きな損傷・時価の下がった車両など)は、受付段階で
「お見積りの結果、全損(修理せず時価額でのお支払い)となった場合には、見積料として◯◯円(税込)を頂戴する場合がございます。修理をご依頼いただいた場合は見積料はいただきません。」 と先に伝え、書面(同意書・受付票の署名欄)で同意を得る(受付マニュアルにも同トークを掲載)。口頭告知のみでの請求はしないこと。
- 二段階見積:分解前の概算見積は無料、分解を伴う詳細見積から有料化する線引きが分かりやすい。
- 全損リスクが高い車両ほど事前告知:経年の輸入車など、全損リスクが高い車両ほど事前告知の価値が大きい。
10-3. 費用の区分と明文化(各店で規定して書面化する)
見積料を運用する店は、次の区分・条件を書面で事前に明示します。「見積料」と一括りにせず、何の対価かを分けるのがトラブル防止の要点です。対象範囲(未修理〈他店修理・修理しない〉・買替・全損)を含め、区分・税込表記・基準は保険協定マニュアル第2章 2-3(入庫確認書)と共通です。
| 区分 | 内容 | 各店で決めて書面に明記すること |
|---|---|---|
| 分解診断料 | 分解を伴う損傷調査の費用 | 税込金額・発生時点(分解着手時) |
| 見積書作成料 | 詳細見積書の作成・交付の費用 | 税込金額・発生時点(見積書交付時) |
| 復元費 | 分解した車両を元に戻す費用 | 税込金額・復元しない選択肢の扱い |
| 保管料 | 長期のお預かりに伴う費用 | 税込金額/日・起算日 |
書面に必ず含める項目: - 各費用の税込金額と発生時点 - 請求先(お客様本人か、保険会社への損害調査費用としての請求協議か) - お客様が修理しない場合(他店で修理・修理しない)の扱い - 保険会社が支払わない場合の扱い(お客様への請求可否)
請求の順序(保険案件): 1. まず保険会社へ「損害調査費用」としての支払いを請求・協議する 2. お客様本人への請求は、受付時に書面で事前告知・同意済みの場合のみ行う
10-4. 各店の運用ルール
- 見積料の有無・金額・線引きは各店判断です(冒頭の設定項目一覧に記入)。
- 本マニュアルとしての要点は「事前に書面で告知しておけば、全損時のトラブルと丸損の両方を防げる」という一点です。告知なしの事後請求は絶対にしないこと(クレーム・信用毀損に直結)。
- 見積料を請求する場合は、受付時の告知記録(受付票のチェック欄・同意書面)を必ず残します。
第11章 受注率を上げる見積の見せ方
受注は見積の中身と見せ方で決まります(実績のイメージは第1章 1-3《参考例》参照)。効いている要素を分解します。
11-1. スピード ― 「その場で概算」が最強
- 個人客(特にネット経由)は複数店を比較しています。最初に具体的な金額と納期を示した店が受注しやすい。
- 現車確認できたら、可能な限りその場〜当日中に概算提示。確定に時間がかかる場合も「概算◯円、確定は◯日までに」と期限を切って伝える。
11-2. 分かりやすさ ― 内訳と選択肢
- 内訳(工賃・材料・部品)が見える見積は信頼される。「一式◯円」だけの見積にしない。
- 可能な案件では松竹梅の選択肢を出す:
- 例:「A案:新品部品交換(◯円)/B案:鈑金修正+塗装(◯円・保証付き)/C案:部分補修(◯円・仕上がり条件付き)」
- ※「完全復元」「新品同様」等、事実以上の仕上がりを約束する表現は使わない。事実(新品部品交換・鈑金修正等)で書く
- 選択肢を出すと「やる・やらない」ではなく「どれにするか」の検討になり、受注率が上がる。
11-3. 保証 ― 永久保証書はクロージングの決め手
「仕上がりには永久保証書をお付けします。塗装の色あせや剥がれが万一出た場合も保証いたしますので、安心してお任せください。」
- 価格比較で迷っているお客様に対し、保証は他店(特に単純な安売り店)との明確な差別化になります。金額提示と同時に必ず伝えること。
11-4. 提示時のトーク例
概算提示:「拝見したところ、◯◯(修理方法)で対応でき、概算で◯万円前後、お預かり◯日ほどです。代車は無料でご用意できます。」
クロージング:「この内容でよろしければ、入庫日を仮でお取りしておきます。ご都合の良い週はありますか?」
比較検討中のお客様:「他店様と比べていただいて構いません。当店は永久保証書をお付けしますので、金額だけでなく保証の有無もぜひ比較材料にしてください。」
11-5. フォロー
- その場で決まらなかった見積は、有効期限内に一度だけフォロー連絡を入れる(しつこい追客はブランド毀損)。連絡可否と手段は受付時に確認しておく。
第12章 現場でやってはいけないこと
| NG行為 | 理由 | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 勝手な値引き | 価格体系・チェーン全体の信頼が崩れる。1件の値引きが取引先全体に波及することも | 値引き要望は承認者(各店設定)に確認。「確認して折り返します」 |
| 口頭での金額確定・約束 | 言った言わないのトラブルの最大要因 | 金額は必ず見積書(システム出力)で提示。変更も書面で |
| 保証範囲の安請け合い | 永久保証書の対象外まで「保証します」と言うと後で必ず揉める | 保証対象は保証書記載のとおりと案内。例外は承認者判断 |
| 現車を見ずに確定見積 | 追加損傷・見落としで赤字とクレームの両方を生む | 電話・写真のみは「概算」と明示。確定は現車確認後 |
| 協定前の着工(保険) | 協定金額と実費の差額リスクを店が負う | 協定→着工の順を守る。例外は管理者判断 |
| 事故と無関係のキズを保険見積に含める | 保険金の不正請求(絶対禁止。加盟店全体の信用問題) | 既存キズは区別して記録。希望があれば自費見積を別に作る |
| 免責金額分の値引き・上乗せによる相殺 | 免責分を実質タダにする操作は保険金の不正請求(絶対禁止。加盟店全体の信用問題) | 要望されても明確に断り、要望があった事実を管理者へ報告する |
| 承認フローを経ない係数・レートの変更 | 自店の価格体系は各店の承認者が決定するもの。担当者が個別案件で動かすと協定・請求の整合が崩れる | 変更は自店の承認者(管理者)の決定を経て設定に反映。操作が不明なら本部へ |
| 見積料の事後請求(告知なし) | クレーム・信用毀損に直結 | 受付時の事前告知+書面同意+記録が原則(第10章) |
第13章 見積提出前チェックリスト
提出(提示・送付)前に、必ず以下を確認します。
共通
- 車両情報(型式・車台番号・カラーコード)を現車・車検証で確認した
- 標準撮影セット(第4章)の写真が揃っている
- 対象パネルの素材(鋼板/超高張力鋼板/アルミ/樹脂)を確認し、修理/交換の選定がメーカー修理書の指定と矛盾していない
- 修理方法(交換/鈑金修正/塗装のみ)の判断根拠を説明できる。迷った箇所は工場責任者に確認済み
- ADAS/エーミング要否を確認した。必要な場合、エーミング・スキャン費用(外注時は外注費・陸送費)と納期を計上した(第7章)
- 工数は標準指数(業者案件は取引先基準)に基づいている
- レバレートのチャネル選択(個人国産/個人輸入/保険/業者別)が正しい
- 色種別(ソリッド/メタリック/パール/3コート/マット)の選択が正しく、材料%が自動算出されている
- 塗装材料係数が自店で決定した設定値どおり
- 部品の品番・価格・納期を確認した。小物・消耗部品の拾い漏れがない
- 諸経費を各店設定どおり計上した
- 税込/税抜、見積有効期限、概算/確定の別を明示した
- 分解前概算の場合、「分解後に変動あり」の注記がある
個人向け
- 永久保証書が付くこと(または対象外条件)を記載・説明した
- 納期目安と代車の案内をセットで提示した
- (該当時)見積料の事前告知を行い、記録した
保険向け
- 保険会社・証券番号・事故受付番号を確認した
- 事故損傷と既存キズを区別して記録した
- 保険会社指定の送付方法・書式で提出する
業者向け
- 取引先の運用メモ(レート・工数基準・書式)を確認した
- 単価・条件を現場判断で変えていない
付録 用語ミニ辞典(新人向け)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| レバレート | 工賃の時間単価。「工数(時間)×レバレート=工賃」 |
| 標準指数 | 業界標準の作業時間の指標。保険協定の共通言語 |
| 指数協定 | 標準指数に基づいて保険会社と工賃を合意する枠組み |
| 塗装材料係数 | 塗装材料代の算出に掛かる係数。本部の推奨値を参考に各店が決定する(第6章) |
| ADAS | 先進運転支援システム。カメラ・ミリ波レーダー・ソナー等で構成 |
| エーミング | ADASのカメラ・レーダー等の機能調整(照準合わせ)作業。対象部位の修理後に必要(第7章) |
| 特定整備(電子制御装置整備) | エーミング等を行うために必要な認証制度。認証の無い店は外注する |
| 協定 | 保険会社と修理金額を合意すること |
| アジャスター | 保険会社側の損害調査員(技術調査員) |
| 全損 | 修理費が時価等を上回り「修理しない」判定になること。分損の対義語 |
| チリ | パネルとパネルの隙間・面のつながり。事故でずれる |
| ぼかし | 補修塗装の境目を隣接部に馴染ませる塗り方 |
| コーションプレート | 車体に貼付された型式・カラーコード等の表示板 |
| 永久保証書 | シューリーズが修理車両に発行する保証書(塗装の色あせ・剥がれ等を保証) |
本マニュアルはシューリーズ本部の承認のもとで改訂されます。改善提案は各店から本部へお寄せください。